暮しと健康相談室


暮しと健康 4月号
保健同人社 2003年4月

取材先 林永信副院長
佐々木研究所附属杏雲堂医院
TEL 03-3292-2051 FAX 03-3292-3376
〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-8

Q 自然気胸で手術をした。
  再発の可能性と予防法を知りたい。

  二十歳、男性。身長170p、体重50kg昨年の九月に自然気胸で入院し、内視鏡手術を受けました。手術前のCT検査では右の肺にブラが三つあり、左の肺にも小さなも のがありました。手術では右の肺にあいた穴を縫って、ブラもとったようです。しかし、左の肺には何もしませんでした。気胸はしばしば再発すると聞きます。予防するにはどうすればよいのでしょうか。また、左の肺が、今後、気胸になる可能性についても教えてください。(栃木県 S・丁)

A ふだんの生活をしてよい。ただし、禁煙はすること。

 気胸とはなんらかの原因で胸腔(胸膜腔)に空気が流入した状態をいいます。 胸脛の外側は胸椎、肋骨、胸骨の骨格とそれらをつなぐ筋肉組織で鳥カゴのような胸部が形成され、底の部分は横郭膜で閉鎖されています。また、その内面はすべて胸膜でおおわれています。
 肺は、その中心部が気管支、肺動脈、肺静脈によって胸腔の内側(縦隔側)の中ほどに固定され、肺の表面は先ほどと同じ胸膜によっておおわれています(図)。
 壁側の胸膜と臓側(肺)の胸膜は、通常、ピツタリと接していて肺がスムーズに伸縮できるようになっています。
 しかし、肺自体には膨張する機能がありません。かわりに胸脛が陰圧になっており、肺固有の弾性収縮カに対して肺を伸展させるようにはたらいているのです。
 こうした構造から、何かの理由で胸脛内に空気が流入すると、流入した空気のぶんだけ肺が縮少してしまいます。この状態を気胸といいます。
 自然気胸は気胸のなかでもっとも頻度が高く、やせて背の高い、若い男性に多く認められます。
 自然気胸の原因は、臓側〈肺)胸膜直下に発生したのう胞の破裂により胸脛内に空気が流入するためです。胸膜直下に発生するのう胞は、プラ(気腫性のう胞)、およびプレブ(肺胸膜のう胞)がありますが、鑑別がむずかしい場合もあり、通常一括してプラと呼ばれています。
 自然気胸が発生すると突然胸痛が続き、咳嗽(せき)が出現します。空気のもれの程度にもよりますが、時間の経過とともに呼吸困難や胸部苦悶感が出現することもあります。
 治療は肺の虚脱(縮少)の程度により変わってきます。虚脱度一度(肺の上端が鎖骨より上)の場合までなら安静、経過覿察も可能ですが、それ以上の場合は穿刺脱気、あるいは胸脛ドレーンの挿入による胸脛内の空気の排出、肺の再膨張が必要になります。
 空気のもれがやまない例、再膨張不良例、再発例、血胸合併例などは手術が必要になります。最近では胸脛鏡という内視鏡とテレビモニターをもちいた手術が主流で、からだの負担も少なく、また短期間で治療ができます。
 胸脛鏡手術後の気胸の再発は、7〜8%程度に認められます。ふつうの開胸手術より高率ですが、それを差し引いても初回の自然気胸の手術では胸脛鏡手術が患者さんにメリットがあると思います。
 相談者の左の肺ですが、その状態の何パーセントが気胸を発症するか正確な数字はありません。しかし、気胸になる可能性はあります。
 予防法としては、喫煙していれば、まず禁煙です。それ以外は、安静時に発症することも多く、また反対に激しい運動や気圧の変動で高率に発症するという報告もありませんので、ふだんの生活をしていただいて結構です。ただ胸痛が出現したときには、なるべく早く呼吸器科の診察を受けてください。

回答者
佐々木研究所附属
否雲堂病院副院長
呼吸器科
林 永信