黒川理事長が兼務されていました研究所所長を今年度から関谷が務めることになりました。
佐々木研究所は、佐々木隆興を初代理事長兼研究所所長として、昭和14(1939)年、当時の文部省より財団法人として認可され、爾来70年余の歴史を誇っている民間の研究所です。その理念は「患者に役立つ研究とその支援を行い、医学・医療の進歩に寄与する」ことであり、現在は、「杏雲堂病院との密接な連携に基づく臨床研究実施及び学術研究支援」を行うことを基本方針として、理念の達成を目指しています。
佐々木隆興は、ドイツ留学後請われて就任した京都帝国大学内科学教授として、その後杏雲堂醫院院長としての臨床活動とともに、それと一体となる活動として医学の基礎研究にも大きな足跡を残し、研究所設立に先立つ大正13(1924)年、「蛋白質及び之を構成するアミノ酸の細菌に因る分解とアミノ酸の合成に関する研究」で日本学士院恩賜賞を受賞しています。昭和11(1936)年には、再度、吉田富三と共に「o-Amidoazotoluolの経口的投与による肝臓癌成生の実験的研究」で日本学士院恩賜賞を受賞しています。研究所設立直後の昭和15(1940)年、佐々木隆興は文化勲章を授かっています。昭和28(1953)年、第2代研究所所長となった吉田富三は、同年、「吉田肉腫の病理学的研究」で2度目の日本学士院恩賜賞を受賞し、昭和34(1959)年には文化勲章を授与されています。
研究所設立当初20年間のこれら優れた先達の研究活動の後、続く40年間はその維持と発展に努力を傾け、主としてがんの基礎研究分野で多くの成果を挙げてまいりました。5年前の平成18(2006)年からは、時代の要請に応じ杏雲堂病院との密接な連携に基づく、診断、治療を有効に行うための臨床研究に特化した活動をしてまいりました。研究所設立以来70年余を経た現在、研究所の現状をきちんと把握した上で、その規模に適した範囲で果たすべき役割を明確にし、公益性を重視する社会構造の変革にも対応した形で、将来に向けた研究所のあり方を考える時点に至っています。研究面では、これまでの伝統に思いを致し、初心に帰り、佐々木研究所ならではの方向性を考えることが重要と考えます。
医学並びに医学に隣接する自然科学を研究することによって、その進歩発達を図るとともに保健・福祉の向上に努めることを目的とする本研究所として、がんを医療、研究の中心に据えることは、極めて妥当であり重要なことです。死亡原因の1位で国民の2.4人に一人ががんで亡くなる現状があること、がんの発生は人間生きている限り必然であること、高齢者が増え続け総人口の36%に達し横ばいになる40年後、さらにはその先までがんは国民の最大の悩みであることから、がんへの取り組みは将来にわたって研究所の果たすべき役割です。がんを中心に医療に邁進する杏雲堂病院と呼応した臨床に密接した研究はもちろんのこと、がんの本態において、まだまだ多くの謎を残している部分の解明に力を入れがんを正しく理解するための研究を進めてゆくことが、日本国民の保健・福祉の向上に貢献できる道と考えます。臨床研究、基礎研究を問わず研究所の規模に見合った地道な研究、他ではやっていない切り口で佐々木研究所ならではのがん研究を進めることが大切と考えます。(2010年4月)
研究所長 関谷剛男
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